大和和紀先生の漫画「イシュタルの娘」女系天皇への見識さすが!

大和和紀(やまと わき)先生がここ数年講談社で連載されていた「イシュタルの娘」が16巻にてこのほど完結しました。

戦国時代に小野於通(おの おつう)という女性が活躍するお話でしたが、この時代の皇室や皇統のことが意外にも細かく描かれている大変珍しい作品です。
しかも、女帝についての見識も明解に記されていて、これにはうなりました。

漫画家 大和和紀先生のことをご存知ない方のために、少しご説明します。

■ 正倉院も太鼓判!

大和和紀先生は、少女漫画界の大御所。

40代以上の女性なら、大体ご存知のことでしょう。「はいからさんが通る」や源氏物語の漫画化「あさきゆめみし」などが有名で、他にも著書多数のファンが多い漫画家さん。今でもご活躍中です。

とにかく絵が美麗!「あさきゆめみし」の衣装の柄などは全部手描き!!信じられないほどです。

漫画は、小説と違って、すべて絵にしないといけないので、資料を調べるのがとても大変。

先生は「あさきゆめみし」を描かれていた当時、正倉院などにも問い合わせて、いろいろな資料を集められたそうです。

でも、作画上どうしてもわからない部分があったので(たしか、机の脚などの些細な部分)正倉院に問い合わせたところ、「実物が残っておりません。先生がわからないものは、私どもにもわかりません。今その分野で一番詳しいのは大和先生ですから、お好きなようにお描きください」と言われたそうです。

細部のディテールにもこだわって描かれた絵は、本当に美しく、気品にあふれています。この気品は、若い作家さんにはなかなか出せないものなのではないかと思ったりもします。

登場人物の着物などの柄を入れていた神アシ(神のようなアシスタント。大抵、なんでも描ける)さんをデビューさせようというお話が持ち上がった時、大和先生は「あさきゆめみし」連載中で、その方がいなくなると非常に困るので、デビューを遅れさせたという、業界内でまことしやかに流れていた噂を知り合いのアシスタントさんから聞いたことがありますが、本当なのかなあ・・・。

そのデビュー差し止めのアシスタントさんにはとてもお気の毒ですが、今その画面を見ている私たちにとっては、ありがたかったのかもしれませんね・・・。

ただの噂かもしれませんが、画面があまりにも凄いので、あり得るのではと思ってしまうお話です・・・。

■ 古典を読むと日本人の美しさがわかる

私は源氏物語の原文は恥ずかしながらさわりしか読んでいませんが、(もう、ほんと、読みにくいんです、源氏って・・・)「あさきゆめみし」を読んでおくと、内容がかなりわかるので、源氏の巻の名前や人物名を言われても、大体わかります。

そして、古典を読むことの大切さに思い至るのは、「あさきゆめみし」など読むとわかるのですが、皇室への尊崇の形が実にしっかり描かれていることなのです。

当たり前といえば当たり前なのですが、古典を読めば日本人がどのように感じ、どのように生きてきたかがわかりますので、皇室への敬慕の念などは、それこそ肌感覚で伝わってきます。

それが、漫画でわかりやすく伝わる。

大和和紀先生すごいです。

日本人としては、古典をじかに読みたいところですが、また、それでなくては学べないものもありますけれども、時間がないなど、色々と事情もあります。でも、漫画で読めば、ある程度のエッセンスを吸収できますので、意外と捨てたものではないと思います。

ただ、子供向けの学習漫画などですと、編集者の意図が入っていたりして、変に内容がねじ曲げられている場合もありますので、注意が必要ではありますが・・・。

「あさきゆめみし」などの良書で、源氏物語の基本知識を押さえると、とても楽です。

源氏以降の古典は、当然のごとく源氏を踏まえていますし、日本文化に与えた影響は計り知れないものです。女性の文学とだけとらえないでいただきたいものです。

「大和魂」という言葉が初めて使用されたのも、「源氏物語」であると、あの占部賢志先生もおっしゃっています!

  ★占部賢志(うらべ けんし)先生:昭和25年福岡県生まれ。中村学園大学教育学部教授。著書多数。トルコのエルトゥールル号のお話をいち早く紹介されたのはこの先生だったと記憶しています。とにかく講演がパワフルで、素晴らしい教育者でいらっしゃいます。

■ イシュタルの娘

そして、これもおすすめなのが最近完結した「イシュタルの娘」

私は、大和和紀先生の漫画を常に追いかけるほどのファンではないのですが、やはり絵は綺麗ですし、歴史ものだとどうしても読んでみたくなります。

ヒロインは歴史上でも謎とされる小野於通(おの おつう)。明智の家臣の娘である彼女は、幼い頃から霊感などがあり、人の命運が見えるという不思議な能力があります。全編、彼女のこの能力が鍵となってきます。

人によれば、こうした霊的なものが物語に入ってくると、リアリティがなくなるということで、排する方もあります。でも私は、こうしたことは現代の私たちが思っている以上に実は頻繁に、しかも実際にあったことなのではないかと内心思っています。

それに、漫画的展開としても面白い!

物語のはじめ、明智光秀が織田信長を討つに至って、於通の流浪が始まります。親兄弟と死に別れて、公家の家に引き取られ、書道や和歌など、公家の教養を授けられます。

当時の公家の生活、困窮などが細かく描かれていて、大変驚きました。御所言葉(「おもうさん」「おたたさん」「おするする」などなど)も沢山出てきたりします。

御所言葉は、ちょっと習いたいですね~。秘密の暗号に使えます。(笑)

戦国時代を舞台にした漫画は沢山ありますが、武家や戦ではなく、そのころの公家の世界を描いたものは殆ど見たことがありません。

この公家の教養を身につけたヒロインが、教養だけを武器に豊臣、徳川へと仕え、皇室と武家の間を取り持ち、最終的には皇室を守ろうとする、とても珍しい物語なのです。

戦国時代、勢力を誇った豊臣や徳川などの武家によって皇室や公家がどのように圧迫を受けたか、それをしのぐためにどのように対処したかなども、描かれていきます。

ラスト近くでは、徳川家、特に春日局の暗躍と後水尾天皇の苦悩が描かれています。優しい絵なので忘れがちですが、極めて政治的な内容です。

また一方では後水尾帝と、徳川家から入内し、後に中宮(帝の妃)となる和子妃との恋も描かれており、女性目線も忘れません。

徳川家は徳川秀忠の姫 和子を皇室に入れましたが、その皇子が夭折するなどした末、皇女興子内親王をとうとう登極(帝位にのぼること)させます。

それらを裏から操っていた家光の乳母であった春日局は、実は昔 於通の弟子でした。

これ以上の皇室への幕府の介入はまかりならんと考えた於通はとうとう春日局の元に赴き、諫めます。

これが最終巻のハイライトです。

■ 女系天皇はありえないということ

於通は、春日局に語ります。

「女帝は結婚することあたわず!

たとえ幕府がその力できまりを曲げて興子さま(登極した皇女)を結婚させ 
男子をお産みになられようと

そのお子が皇位につくことはありません!

したがって 徳川の血を
皇統に入れることは永久にかなわぬ

そのこと承知おくがよい!」

ここで春日局はこれ以上の暗躍をあきらめます。

いや~、実にさらっと、男系の皇統についてしっかり語っておられるのです、大和和紀先生は・・・!女系はあり得ないと。

さすがに源氏物語を漫画化されただけのことはある、立派なご見識とお見上げ申します。

後水尾天皇については、私の学生時代でも「紫衣事件」くらいしか教科書では習いませんでしたので、この時代がどれほど大変な皇統の危機であったかなど、殆ど知ることはありませんでした。

この「イシュタルの娘」を機会に、江戸時代の皇室のことなども、勉強してみたいと思った次第です。

こういう、多くの方が読まれる読み物で、きちんとした見解を示しておられること、本当に尊敬申し上げます。

というか、日本ではこれが常識なのですね。占領軍によって過去を奪われたから、今の私たちが知らないだけで。

でも、知らないということは、もはや罪だなあと、最近思います。

「イシュタルの娘」は、後半に至っては絵が少し乱れてきたりもしていますが、お話はしっかりしておりました。このような精緻なお話を紡ぐことのできる方は実にまれです。

是非大和和紀先生には、今後も漫画を描き続けていただけたらと一ファンとして切に願っています。

また、ご自身で絵を描かれなくても、漫画原作をされることも望ましいなあと思います。少しでも長く、先生の描かれる漫画を読み続けられたらと願います。

今、以前よりずっと歴史ものを漫画で読む機会が増えています。一昔前からは考えられないことです。なかなか嬉しい時代になってきたなあと、楽しんでいるところです。

遠州まほろばの会  六波羅七瀬

 
       




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